




父のいる、神棚に、珍しく手を合わせた時は、
そのことを、すっかり忘れていた。
今日はタワーを見に行くつもりだった。
最後のお別れだ。
父の葬式に、二度立ち会う気分だ。
タワーに近づくほどに、気配が濃くなる。





展望台の開業から閉鎖まで、
父の長き職場だった。
隣りの放送局や、展望台までの道程を通る度に、
いろいろな話をしてくれた。
来る度に同じ話をするので、内容はおぼろげでも、
父の声だけは、未だに耳から離れることができない。





切符売場の中は、10年もの間そのままなのだろうか。
秒針が同じ所で震える時計は、当時のものか。
主のいない小部屋への、付け加えられた演出か。
いずれにせよ、今日で見納めだ。



やがて鉄くずやガレキと化すタワーが、
灰になっていく父を連想してしまう。

母は、父が亡くなる数日前、夢を見ていた。
「宇宙旅行に行ってくるわ」
ロケットの発射台のようなタワーとともに、
ようやく父も、天上へと導かれるのだろうか──






